Strafkolonie-キャラクター資料館【本家/学園共用】
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fld_nor.gif ボロボロの手帳
投稿日 : 2023/01/08(Sun) 11:44
投稿者 ヒュー
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記録とメモ
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12>
件名 遭遇録
投稿日 : 2023/01/08(Sun) 11:54
投稿者 ヒュー
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【A~G】
アイリスちゃん(アイリス)
朱ちゃん(朱)
アンナちゃん(アンナ)
アンネちゃん(アンネリース)
エリーちゃん(エリクシル) (誕生日決め中)
エルルーちゃん(エルルーン)
フェルたん(フェリクス)
ファーちゃん(ファティマ)
フェナたん(フェナカイト)

【H~N】
キゾっち(キゾ)
キリカちゃん(キリカ)
キョウちゃん(キョウ)
きよみん(鈴木清実)
リースちゃん(Ⅺラドグリース)
イツキたん(イツキ)
猫にゃん/クロにゃん(クロ)
おキヨちゃん(キヨヒメ)
羊ちゃん(クリスタ)
ララちゃん(ララ)
(リーゼロッテ)
リラちゃん(リラ)
メーちゃん(メーディア)
ミギリたん(砌)
魔女ちゃん(ノチェ)
マリっぺ(マリ) (6/3)
万結ちゃん(万結) (7/17)
ニカたん(ニカ)
ほむほむ(焔)

【O~U】
ステラちゃん(ステラ)
シシィ嬢ちゃん/エロ紳士(シシィ/ヒンメル)
いっちゃん(柊一)
つーたん(椿鬼)
ラーたん(瀬琉)
ラシちゃん(紫折)

【V~Z】
ヴィーたん(Ⅴ) (4/10)
ルロイたん(ルロイ)
ゆーちゃん(ユーシャ)
ちびやこちゃん(ちびやこ)
ゼロたん(ゼロ)
ゼルたん(ゼル)
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件名 無題
投稿日 : 2023/01/08(Sun) 11:51
投稿者 ヒュー
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5月8日
中央広場にて。猫妖精のクロちゃん。

7月13日
教会にて。マリほむお姫様抱っこ。

1673146280-1.png1673146280-2.png

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件名 無題
投稿日 : 2023/01/08(Sun) 11:50
投稿者 ヒュー
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ヴィー画伯の絵。
左が時計塔で、右が紅葉並木。

1673146257-1.jpg1673146257-2.png

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件名 無題
投稿日 : 2023/01/08(Sun) 11:50
投稿者 ヒュー
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(空白のページ8)
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件名 家諸々
投稿日 : 2023/01/08(Sun) 11:50
投稿者 ヒュー
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【ブルーエ・ハイム 302号室】(Vと同居)
商業区のメインストリートの山羊印が特徴のパン屋の隣に伸びる、脇道沿いにある3階立てのアパート
給湯設備・上下水道が完備された3LDKの間取り。リビングにはシーリングファンと暖炉があり、夏冬の主な冷暖房となる。
リビングの他に3つの個室があり、寝室、物置き、W(愛犬)の部屋となっている。
リビングの壁には万結が描いてくれた絵が額縁に入れて飾ってあり、寝室の壁にはV(画伯)の描いた絵がコルクボードに貼られている。
寝室とリビングから商業区の通りの賑わいを一望できるバルコニーに出られ、洗濯用の物干し竿と、チェアとテーブル一式、魔導大型バイク&サイドカーが置かれている。
日当たりがよく、家庭菜園をやろうと(ヒューが)画策中。

【魔導カメラ】
デジタル一眼カメラの見た目と類似の機能を持った魔導カメラ。
写真、映像ともに撮影できる仕様で、カメラの裏側には操作が行えるパネルとボタン類があり、カメラ側面部に、自由に着脱できるカードリッジが備えられていて、撮影したデータは其処に保存される。
(カードリッジには容量があるため、都度、専門の店で購入して交換する必要がある。)
カメラ内部に"出力"の魔法を持った魔石が埋め込まれており、カードリッジ内のデータを魔石に仕込まれた魔法を用い、具現化する形で写真を現像することができる。
その際はカメラの底部から排出される形でプリントアウトされる。 映像に関しては別途、プレイヤーを用いることで再生することができる。

10歳(2024)の誕生日プレゼント。
カメラの底に『Hoe Gaarden』と名前が刻まれている。
黒のストラップを付けて首から提げ、散歩中などに写真を撮っている。

【ポータブルプレイヤー】
15.6インチの水晶画面を持つ、折りたたみ式のポータブルプレイヤー。 折りたたみの上部は15.6インチほどの画面サイズを持ち、下部は操作のためのボタンがある。
魔導カメラのカードリッジをこの装置に取り付けることで、カードリッジ内の写真や映像が画面に投影される。 魔導カメラもプレイヤーも、周囲のマナを吸収・貯蓄することができるマナバッテリーを搭載しており、其れを動力源としている。

10歳(2024)の誕生日プレゼント。
リビングの窓辺に置いていて、Vと一緒に映像を見る時に持ってきて使っている。

【イーハトーヴ1000(魔導大型バイク)】(Vと共用)
1000ccの大型エンジンを取り付けたクルーザーモデルのバイク。カラーリングは黒をベースに、赤の塗装がされている。
コックピットにはアナログメーターと液晶モニタが取り付けられ、バイクの状態(損傷など)がすぐにわかる。
後部にはバックレストを兼ねたトップケースがあり、パニアケースも含めると全てで140Lの大容量に。
二人乗りはもちろん、子供ぐらいなら三人でも乗れる。
ただし、中古品。

同カラーリングのサイドカーも接続可能で、愛犬や友人らを乗せたりが出来る。
通常時はベランダに保管しており、必要な時は空間転移を使って路上まで降ろしている。

【ガラスドームの菜の花】
玄関に置かれている、ガラスドームに入れられた菜の花。
Vの誕生日にWが持ってきたプレゼント。

【妖精のコーヒーミル】
サンシャインコーヒーの採取依頼の際、妖精たちからもらったもの。
「どの豆を、何人分、どんな風に挽いて欲しいか」を言い、近くに豆を置いておくと、自動で豆が宙を舞ってミルに入り、お好みに挽いてくれる。
さらに挽いている間、オルゴールのような音色の曲が響く。知らぬはずなのに、何故か懐かしさを覚える曲なのだとか。
サンシャインコーヒーを栽培している古森奥の妖精たちに何かあると、一人でにハンドルが回って曲が流れ始めるので、急に曲が流れ出した際は、緊急事態が起こっていると思っていい。

キッチンに鎮座しており、毎朝使っている。

【思い出のプリザーブドフラワー】
リビングの一角に大きな花瓶が置かれており、記念の花がプリザーブドフラワーにされ、何本も入れられている。
Vがいつか『綺麗』をわかるように。その感性が育つように。
ヒューが『思い出』に怯えないように。それに慣れるように。
・赤い薔薇と白い霞草のバスケット(20240131:愛妻の日)
・青い紫陽花(20240611:祠掃除依頼)
・ピンクの薔薇9本と桔梗(20240621:はじめておつかい)

【金魚鉢】
リビングの出窓部分に置かれている金魚鉢で、夏祭り(2024)の金魚すくいで手に入れた金魚が泳いでいる。
暗くなると青く光る夜光金が二匹、黒の出目金が一匹、レインボーシャイニング(通称RS金)を一匹、飼育中。
金魚はフナの突然変異個体を掛け合わせて生まれたものだから、とVが命名。
H(イータ):出目金
U(ウプシロン):夜光金
N(ニュー):夜光金
A(アルファ):RS金

【星硝子の詰まった瓶】
夏祭り(2024)で購入した、制作過程で欠けたり割れてしまった小さく細かな星硝子が詰まっている。
主にビーズ〜ビー玉サイズ程度で、基本的に丸いが、多角形になっているものもある。
メインの色はありつつ光を受ける角度によって色彩が変化するまるで万華鏡のような硝子。
また星硝子はどれも"星の熱"を持っており、触れるとほんのり温かい。
人智の先の"星の熱"を受けているゆえに、非常に熱に強く、火事に見舞われても溶けたり崩れたりすることはないとされている。
反面、衝撃に大しては特別強くはない。一般的な硝子と変わらぬ強度。
金魚鉢の横に置いて光が差すのを眺めて楽しんでいることが多い。

【星硝子の風鈴『涼星』】
夏祭り(2024)に購入した、蒼く透き通った硝子が特徴的な、シンプルなドーム状の風鈴。
夜空に花火柄の短冊が、青い紐で繋がれぶら下がっている。
ベランダに面したリビングの窓にかかっており、窓を開けると涼やかな音を立てる。

【Vヒューのぬいぐるみ・フィギュア】
夏祭り(2024)で射的の景品や購入したもの。
ぬいぐるみは20㎝ほどのもので、それぞれによく似ている。
フィギュアは子供の姿(10歳児)のヒューと泥スライム(V)のフィギュア。それぞれの本来の姿。
暖炉の上に飾ってある。

【パンダのデカぬいぐるみ】
夏祭り(2024)に射的で撃ち落とした、100cmのパンダのぬいぐるみ。
主に寝室に置かれており背もたれ代わりに使ったり、たまにヒューが抱き枕にしている。

【W似のデカぬいぐるみ】
夏祭り(2024)に射的で撃ち落とした、100cmの犬(W似)のぬいぐるみ。
Wへのプレゼントであり、基本的にリビングやWの部屋に置かれている。というか、Wが引きずって運んでいる。
時折、洗濯するとWが『ぬいを助けなきゃ!』とそわそわして洗濯される様子を見守っていたり、干されるのを切なそうに見ていたりする。

【魔導で光るみょんみょんカチューシャ】
夏祭り(2024)に射的で撃ち落とした、触覚のようなものが生えたカチューシャ。
触角の先が、♡でピンクに光るものと☆で黄色に光るものがある。
Wの夜散歩の時にWの頭に付けたりしている。

1673146201-1.jpg

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件名 俺の
投稿日 : 2023/01/08(Sun) 11:49
投稿者 ヒュー
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クローゼットの奥。
綺麗な紙箱の中に、大事にしまってあるもの。

【黒いリボン】
メ―ディアからもらったリボン。
古森の家への道しるべ。

【忍者サインTシャツ】
白地のTシャツに各忍者からのサインが書いてあるもの。
『ヒューさんへ 忍(でっかく書いてある)の忍野椿鬼より。体大事にしてね』
『ヒュー殿へ 着々寸進、洋々万里也 (忍野柊一)』
『ヒューさんへ 美味しいお菓子、これから一緒にたくさん食べようね。元忍の焔より』

【闘技大会ドッグタグ】
流刑都一闘技大会の出場者の証。
『Vのドックタグ』
『エリクシルのドックタグ』
『ゼルのドックタグ』

『俺のドックタグ』

【蛇神?の抜け殻】
祠掃除の依頼をしたら手の中にあったもの。
油紙に包まれ、さらに小さな巾着袋に入れられている。
(蛇皮は脱皮した皮らしく、蛇のうろこ模様が付いた半透明な皮。魔力を察知出来る者であれば、そこから火属性の魔力が流れていることに気付く。その皮をお守りなりにして持ち歩くことで、自身の火属性(火・肉体強化など)の魔力が開花し、魔法を徐々に使えるようになるだろう。あるいは、アミュレット(所持している間だけ魔法が使える)などとして使うことも出来るかもしれない)

【誕生日メッセージカード】
ヒューの10歳の誕生日に送られてきた、万結からのメッセージカード。クレヨンで書かれている。
お誕生日おめでとう、いっぱい一緒に遊ぼうね、大好き、といったメッセージが書かれている。
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件名 無題
投稿日 : 2023/01/08(Sun) 11:49
投稿者 ヒュー
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(空白のページ1)
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件名 無題
投稿日 : 2023/01/08(Sun) 11:48
投稿者 ヒュー
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1日目

兄貴がミスった。
質量計算と出現ポイントのわずかなズレ。
わかってた。
やけに眠たいのはエネルギー不足だ。
でも弟だけにやらせるのは心配だった。
都市スリーミニッツの銀行は、新型の警備ロボが配備されてた。
俺たちは強盗じゃない。
だから、俺が中まで『飛んで』やらにゃ……
いや、そもそも俺が兄貴に信用されるほどの腕だったら良かったんだ。
兄貴はどう考えても眠りがちで、元々なかった体力がさらになくなって……
俺がしっかりしなきゃいけなかったんだ。

兄貴が 弟が

ミスった。
俺が

俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が
俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が
俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が
俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が
俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が
俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が
俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が
俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が



俺は 誰だ

2日目

記憶混濁が酷い。
兄貴と弟の記憶がごっちゃになってる。
俺は誰だ。
兄貴じゃない。弟でもない。でも、どちらでもある。
どっちなのか、どっちでもないのか。
俺は誰だ。
記憶整理しようとすると負荷がきて、すぐに吐く。
食ってもいないのに胃液を吐くまで吐いて、まだ吐けるのになんだか感心した。

寂しい。
いつも隣には兄貴が 弟がいたのに。
今は、一人。

一人になった。


おかしな話だ。

3日目

日付の感覚がよくわからない。
寝て、起きたら、1日とカウントすることにする。
記憶整理のためにこうやって書き殴ってみてるが、何も進展がないように思う。
どうしたらいいのか、わからない。
俺は誰なんだ。
やけに眠い。
脳が負荷に耐えられないのか、ストレスからか……
実際はどれくらい眠っているのやら、見当もつかない。

一つの仮定として、『有機融合』という可能性が浮かぶ。
元々EPなんだ。
人間サマと比べたら、俺たちの方がよっぽど融合しやすい。
『一人に成った』
これが正解だろうか。

寝てる間に記憶が整理されてることを祈る。

4日目

遅々として記憶整理が進まない。
一時、保留。俺が誰だか考えるのはヤメだ。

ここがどこだか、場所調査に切り替える。
スリーミニッツにこんな場所あったか?

腹が減った。

人はいるのに、会話をする気力がわかない。
場所特定する気力もすぐに失せた。

眠い。

5日目

空腹で目が覚めた。
なんとか場所移動を試みる。ついでの観察。
スラム街のようだ。
今の俺じゃあ、袋叩きにあって終わりだろう。
そうじゃなくたって、その内、餓死する。
ああ、でも……それでもいいか。

会いたい。
ただ、  会いたい。
夢でいいから

会いたい。

6日目

気付いたら布団に寝かされてた。
ジジイが俺を拾ったらしい。
なにも聞かず、飯もくれた。

でも会話する気にならない。
臭いから入れ、と風呂も貸してくれた。

鏡を見た。
兄貴の顔だった。そのくせ、目は弟の



クソッタレ

7日目

ジジイは何も聞かない。
ジジイの店は古本屋らしい。

古本屋『日陰堂』

本が大量にある。
何も考えたくないから、読む。
片端から読む。

ジジイは何も言わない。

ありがたかった。

9日目

今日も朝から本を読む。
魔法だの錬金術だの科学だの。
知らない学問の本が大量にある。
文字も見たことのない文字なのに、不思議と読める。

片端から読む。
俺に起きた現象を名付けるなにかが欲しくて。

12日目

ようやく、ここが他の惑星らしいと知れた。
厳密には平行世界か、別次元か。
兄貴の『ジャンプ』もすごいもんだ。

ジジイが俺にしきりと話しかけてくるようになった。
異世界人の集まる世界だとかなんだとか。
話がファンタジー過ぎて理解が追い付かない。
でも、ここにある本を見てりゃわかる。

ジジイは本当のことを言ってる。

異世界。他惑星。流刑の地。
罪のある奴が、この世界に流れてくるのか?

13日目

ジジイが名乗る。
カジロ タツマ
タツマがファーストネームらしい。
名前を反対に聞かれた。

スラム街に転がってた空き瓶を、なんだか思い出した。
ラベルには『ヒューガルデン』とあったから、ヒューと答えた。

『俺』に名前なんてないんだし、これぐらいが丁度いい。

21日目

ジジイは毎日、飯をくれる。
ありがとう、と言ったら、礼が言えるのかと笑われた。

ジジイ…爺ちゃんには世話になりっぱなしだ。
店番を申し出る。本は読むけど。

そしたら、愛想よくしなきゃダメだと言われた。
ジジイ………

25日目

メガネを創った。
鏡を見るたびに辛くなるから。
爺ちゃんは何も聞かず、似合ってるとだけ言った。
俺は爺ちゃんに、何度、救われたか。

こういうところは弟の感性かもしれない。
兄貴は弟のそこに救われてた。
最近は、兄貴、弟、それから俺の3つに分けて考えることにした。
そうすることで、少しは頭の中を整理出来る気がする。

28日目

どうせ顔が兄貴なんだ。
なら、兄貴を真似りゃあいい。
でも、あんまり上手くはいかなかった。
へらへら笑って、適当に混ぜっ返して、皮肉を言って……
でも、やっぱり上手くいかない。
笑うことだけでも、練習してみようと思う。

そもそも顔を変えたって構わないだろうに、そんな気も起きない。

兄貴が鏡から俺を見てる。


………吐き気がする。

30日目

約1ヶ月経った。
爺ちゃんは飯と寝床をくれる。

これでいいや。
いや、よくない。

相反する気持ちが次々浮かび、疲れる。
試しに冒険者ギルドとやらに行ってみた。
みんな剣やら弓やら銃やら……
どこも物騒なようだ。

結局、武器を取らねば生き残れないのか。

31日目

爺ちゃんに武器を扱ったことがあるか訊いてみた。
そうしたら、古びた剣と短剣を持ってきた。

ちょっと意外だった。

剣術の手解きをしてやろうか、とも言われた。
正直、面倒くさい。
でも、身体を少し動かしたくなって、応じることにした。
ちょっとだけ……ちょっとだけだ。

34日目

爺ちゃんの稽古は厳しい。
もっと年寄りを労れってんだ。
そう考えて、はたと気付いた。
俺の寿命はあとどれくらいだ?

身体はまだ動く。
能力も問題なく使える。
だが、兄貴はもう限界だった。
弟は?
酷使されてたんだ。
弟だって、そう先は長くなかったはずだ。

じゃあ、能力を使い続けたら、俺はもっと早く死ぬのか?

ああ、でも


それもいいか。

41日目

爺ちゃんに対して、恩義以上のものを感じ始める。
これはよくない気がする。
ここを出ていかねば。

もう追われることもないのに、どこかに腰を据えるのが怖い。
兄貴と弟以外に大事な人を作るのが怖い。
怖い。
兄貴と弟のように、また失うような気がして怖い。
一人になりたくない。
一人にされるのも嫌だ。
怖い。

早くここを出て行かねば……

49日目

居心地がよくて離れられない。
爺ちゃんに連れていかれて、町内会の面通しとかもすることに。
……居心地がいい。
誰かの傍にいる間は、寂しさも忘れられる。

このままでもいいのかもしれない……
爺ちゃんの面倒見ながら……
いや、面倒見てもらいながら……


でも、
このままでいいんだろうか……

58日目

爺ちゃんが倒れた。
病気らしかったが、俺に判断出来るわけもない。
爺ちゃんを抱えて、急いで診療所まで『飛んだ』。
診てもらったら、薬草が足りないだの、器具が足りないだの……
だから、片端から『創った』。

そのおかげか、爺ちゃんは大したこともないそうだ。
安心したけど、すごく怖い。
怖くて、医者に文句言われながらも、診療所の床で寝た。

夜中に何度も目が覚めて、爺ちゃんの寝息を確かめた。
まだ生きてる。
生きててくれてる。

怖い。
……怖い。

61日目

今日も古書店の店番をしたり、見舞いに診療所に行ったり。
爺ちゃんは町の人たちに好かれてる。
心配する人たちに、説明したりもした。
大した事なさそうだと知って、みんな安堵してた。


診療所に行くたびに医者に言われた。

『アレが足りないんだけど、また前みたいに創れないか』
『急患をここに運んでくれないか。前みたいに瞬間移動で』

知ってる。
人間サマは『こういう生き物』だってことは。




……吐き気がする。

65日目

爺ちゃんが退院した。
安心したのも束の間、俺の能力について問われた。
医者から聞いたらしい。
……クソ医者め。

正直、不安の方がデカかった。
それでも、爺ちゃんを信じて洗いざらい、全部話した。

EPのこと。
別の世界から『ジャンプ』してきたこと。
でも、ミスって兄貴と弟が融合しちまったこと。
融合したら『俺』になったこと。
平行空間軸をねじることで、瞬間移動が出来ること。
無から有を創り出せること。
存在力(アース)。
能力を使うとその分、エネルギー消費が酷くて、寿命が縮まること。

そんなことを全部。
俺のことを知って利用しようとするのなら、俺はどっかに逃げればいいと思った。
なのに、爺ちゃんは手をついて俺に頭を下げた。
自分のせいで、俺の寿命を縮めた、って。

……そんな爺ちゃんの姿が、辛かった。
そんな風に詫びてもらいたくて、必死になったワケじゃない。

ああでも、……そうか。
必死になった俺が悪いのかもしれない。

68日目

ここを出ていくことを、爺ちゃんに言った。
このままじゃ、俺は爺ちゃんのために必死になって……
爺ちゃんもそれを苦しむことになる。

爺ちゃんは『そうか』と、一言言って、止めることもなかった。
ただ『いつでも帰ってきたらいい』と言ってくれた。
『何か出来ることはあるか』とも。

だから、一つお願いすることにした。
俺専用の棚を作って、そこに毎日、甘味を供えてくれ、って。

俺なりに考えて、能力を使う力が『アース』だとしても、
身体を維持するエネルギーでアースを補給することは出来るんじゃないか、って。
つまり、カロリーがアースを間接的に生み出すんじゃないかと。
とはいえ、俺も食べる量にも限度があるから、一時的に能力を使う際の誤魔化しみたいなもので……
どっちにしろ、付け焼刃だとは思うけど、少しはマシだろう。

爺ちゃんは本当に、優しい。
でもだから、怖い。
爺ちゃんを看取る日が来るのが、怖い。
目の前でまた倒れられたら、俺は半狂乱になる。
それでも、何も出来なかったら……また一人になったら……
怖いから、見ないことで誤魔化すことにした。
傍に居なければ、人伝に倒れたと知るようにすれば、きっと……大丈夫。


――ずっと夜遅くまで爺ちゃんと話をした。

71日目

選別に爺ちゃんの剣と短剣をもらった。
ショートソード『風切』。
ソードブレイカー『波止』。
それから、シューターを仕込んだ籠手。
……でも、これらを使って生計を立てるっていう気が、湧かない。
ただ、断る気にはなれなかった。
大事にしようと思う。

荷物は最低限にして、爺ちゃんと別れた。

72日目

冒険者ギルドに行くも、やはり気乗りがしない。
生計を立てなきゃいけないのに、働く気力が湧かない。
自分のために稼ぐなんて、微塵もなれない

酒場に行った。
酒を飲んで、その場にいた人たちの話を聞いた。
……酔っ払いは不思議だ。
酔えば、滅多に人には言わないような話もして、財布の紐も緩む。
それが、なんだか楽しく感じられた。
奢ってくれる。
その『善意』が嬉しかった。
何より、俺を『兄弟』だの『親友』だの……
酔っ払いの戯言とわかっていても、そう呼んでくれるのが、

嬉しい。

74日目

酒場で働くことを考えた。
住み込みで働かせてもらえないか、とお願いすることも考えた。
でも結局、実行に移せず、今日も今日とて酒を飲む。
もらったお金は、とうにない。
兄貴たちがやっていたように、盗めばいいのかもしれない。
でも、それも嫌だった。

誰かが奢ってくれる。
その善意が、やけに身に沁みる。
寂しさが薄れる気がする。

だから結局、ずるずると酒を飲む。
ロクデナシだなと思うけど……どうしても、気力が湧かない。

81日目

知り合った冒険者から未踏区域にある図書館の話を聞いた。
そこには、色んな世界から流れ着いた書物があるんだとか。

もしかしたら――
そこになら『分離』する手段が書かれた書物を、見つけることが出来るかもしれない。
『兄貴』と『弟』に分離する手段を見つけることが出来るかもしれない。

……分離したい。
兄貴と弟に別れたい。
二人を会わせてやりたい。



『俺』が消滅しようとも。

83日目

教えてもらった冒険者に同行する形で、未踏区域の図書館に行くことが出来た。
……こんなに長く歩いたのはなんだか久々だ。
幸いなことに図書館までの道のりは整備されていて、俺でも行けそうだ。
何より、座標を覚えたから今後は『飛んで』来れるだろう。

当然のことだけど、爺ちゃんの店なんか比べ物にならないほど本があった。
下手したら、都の図書館よりもあるかもしれない。
片端から読んだ。
帰るぞ、と声をかけられて、ようやく日が暮れたことに気付いた。

進展はなかったけど、今後はちょくちょく通おうと思う。

90日目

いわゆる『お持ち帰り』をされた。
かなり酔ってたし、あんまり覚えてないけど、嫌悪はなかった。
ただ、酒を飲むとやけに人恋しくなるのもわかる。
酒を飲むと、理性で抑えていたアレコレがきっと綻ぶんだ。
だからきっと、あの人も心の奥底では寂しかったんだろう。

このロクデナシでも、誰かの寂しさを紛らわすことが出来るなら……
それでいいじゃないか。
俺を欲してくれるなら、

それでいいじゃないか。

98日目

なんだかんだ酒場でぐだぐだしているだけなのに、まだ生きている。
たまに皿洗いだの、床磨きだのを命じられて、それで飯をもらうことも出来る。
誰かが奢ってくれることもあるし、古着や寝床を貸してくれることもある。
顔馴染みも少しずつ、出来てきた。
俺は話を聞いているだけなのに、嬉しそうに冒険の話だの、旦那の愚痴だのを語ってくれる。
もちろん、俺のことを『集り屋』だの『乞食』だの、陰口叩かれたり、酒を頭からぶっかけられることもある。

でも、まだ今日も笑えてる。


笑うことの尊さを知る人は、なんと言うだろう。

100日目

記録は一旦、止めようと思う。
俺は誰かに奢ってもらって、誰かと寂しさを舐めって、笑って過ごすことにした。
生きるのも、死ぬのも、……どうでもいい。
気力は相変わらず、湧かない。
それでも――まだ、笑えてるから。

何も感じたくない。
何も考えたくない。

でも、少しでも誰かの背中を押せたら。
……なんて、願うことが間違ってる気がする。

寂しい。
ただただ、寂しい。

早く『分離』したい。



一人は嫌だ。


 ・
 ・
 ・
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件名 無題
投稿日 : 2023/01/08(Sun) 11:48
投稿者 ヒュー
参照先
2568日目

8月13日
浜辺で花火を打ち上げてる奴を見た。
命だの魂だの死だの、小難しい話をしている――人間になりたい人外さん。
心臓と脳ミソを宇宙に打ち上げる、とか面白い話もしてた。

死は遺された誰かによって、有為にされるらしい。

……俺はどうなんだろう。
兄貴は生きてる。弟だって生きてる。
でも、『俺』になった時点で、生きてるんだろうか。

銅貨5枚で俺の死に目に人外にしてくれる、なんてことも言ってた。
どうせ、どこかの路地で誰に看取られることもなく死んでいくと思ってたけど……
ちょっとだけ、いいな、と思えた。
人外になることも、生きることも、死ぬことも、どうでもいいけど、
死ぬ時に誰かが傍にいてくれるのは、

寂しくなくて、いい。

彼の話を聞く――『知識』の対価に、何かを成すことを課された。
だから、ふと……こんな可愛い人外さん相手と

恋を成してみたいと、


ちょっとだけ思った。

2570日目

8月15日
夏祭りに『射的屋をやれ』と爺ちゃんに命じられた。
なんでも、射的屋をやる予定だった店主さんが、腰をやっちゃったらしい。
ちゃんとバイト代も出してくれる、っていうからやることに。
……まあ、バイト代なくてもやったけど。

いつものように歯車亭にいたら、ヴィーが来た。
賭けをして俺が勝ったら奢ってくれるとかって言うから、負けたら俺の秘密を教えることに。
前職と本名のどっちか……と思ってたら、なんやかんやで二つとも教えることになった。
正直、知られても大して問題はないから、別に構わない。
ただ、教えたのは兄貴の名前だけだから、正解とは言えない。
それ以上は教えてやらない。
案の定、それを知って物凄く悔しがってた。
……可愛い。

ヴィーは、とっても真摯だ。
だからある意味、安心して話せるし、安心して揶揄える。

恋の話にもなった。
ヴィーからすれば、皆、同じにしか見えないんだとか。
人外だから、人間が犬の顔の見分けがつかないように、人間の見分けなりがつかないのかもしれない。
でも前の世界ではモテたとも言ってた。……なんだか、納得。
俺に『恋』を教えて欲しい、とかも言ってた。
彼は貪欲だから知らぬものは、何でも知りたがる。

……『俺』が恋をしたことなんてないから、教えるなんてことは出来ないけど、でも、

ヴィーと飲むのは楽しい。





死に際にしか思い出せないけど、彼の本名を知る。
……思い出せないけど、でも……

嬉しい。

2592日目?

夢を見た。

兄貴と弟がいて……いや、『俺』が兄貴であって、弟であって。
二つの意識と記憶が残ってる。
前の世界でスチームトレインを追って、車を走らせてて……
久々にバイターの大群を見た。
相変わらず、バイターは厄介だ。
でも、アレが食料になってるんだから……ラムケバブ食べたい。

夢でヴィーとテオに会った。
夢でも見るなんて、すごく好きなんだろう。
いや、誰それの陰謀だかで、他人の夢に侵入出来るんだったか……

……目が覚めて、兄貴も弟も居なくて、すごく寂しかった。
テオが衰弱した俺の面倒を見てくれたけど――


……会いたい。

9月27日

寂しくて、笑いながらヴィーに手紙を送る。

『奢って♡』

たったそれだけだったけど、ヴィーは連絡をくれて奢ってくれることになった。

俺に餌付けをするのは興味からで。
興味があるから執着していて。
他の『飼い主』に浮気するのは、良い顔をしないらしい。
……そんな言葉だけで、嬉しくなるんだから重症だ。

俺の死を有為にするのは、嫌がらせ。
知ってる。
それでも。



……『それでも』なんだよ。

10月9日

改めて、ヴィーと吞んで思うことは『人間性が足りない』。
呑むのは楽しい。会話も楽しい。
同様にヴィーも俺と吞むことも、会話することも、俺から学ぶことも楽しんでいる。
そこは間違いないと確信が持てる。

でも、例えば俺がヴィーの目の前で死んだとしても、彼が泣くことは決してない。
死に際の俺を前にしても
『よォ、死ぬのか?んで、何を想う?』
と、煙草をふかして見下ろす姿しか想像が出来ない。

そして、多分、その想像は間違ってない。

だからこそ、賭けてみたくなった。
前向きにならない、成長の見込めない人間を殺すのが彼の本能だ。
だから諦念しきっている俺を殺したいと思うのが先か。
そんな事態になった時に、それでも殺せないと『人間性』を見せるか。
それを賭けてみたいと思ったら、久々に『楽しい』と思えた。
俺が彼に人間性を説き続けて、芽吹くのが先か。
まったくの無駄で終わるのか。
何より、どうせ死ぬなら彼の手で殺された方が

何千万倍もマシな気がする。


『俺は誰だ?』
そんななぞなぞにも、真面目に取り合って考える様は可愛らしい。
及第点にも至らなかったから、結局、教えた。
『俺』は結局『成れの果て』だ。
でも、そんな俺を『分離』させることがヴィーには出来るらしい。

ただ『分離するならどっちになりたい』と問われた。
兄貴か、弟か。
考えてみたけど、選べるわけがない。
どっちもだ。
『俺』なんぞ、消滅して構わない。
それでも、兄貴と弟は『二人』に成らなきゃダメだ。

『一人』はダメだ。


酔い潰れたことがないヴィーとの呑み比べ。
結局、俺の負け。
負けたら『右』なんて条件を出してみたけど、よっぽどヴィーは抱かれるのは嫌らしい。
またチョッカイかけてみようか。

11月某日

『分離』について、テオには話をしていた。
方法はまだ、ない。
ただ、再確認のように訊かれた。
『二人』に成るでいいんだね、と。

その瞬間。
『惜しい』と、思ってしまった。

広く浅く。
俺がいなくなったことにも、誰も気付かず。
気付いた所で探すでもなく。
あるいは、真相を知った所で悲しむでもなく。
悲しんでくれたとしても、翌日にはいつもの生活に戻る。
そんな人間関係を望んで、そう在るようにしてきたつもりなのに。

その人間関係を手放すことを『惜しい』と――
『俺』を手放すことを『惜しい』と思ってしまった。

……情けない。
元々、存在しない『俺』が消滅するのなんて、当たり前の話なのに。
何を今更、躊躇うのか。
その一方で、死ぬことには抵抗がないんだから、おかしなものだ。
多分、『俺』だけが居なくなるのが、寂しいんだろう。

自分が『寂しがり屋』なのは、百も承知で。
他人にもそう明言していたけれど、ここまでとは。
――みっともない。

『その時』が来た時。
きちんと『俺』だけ消滅出来るように。
全部を諦められるように。

でも……
出来るなら

『三人』に成れたら


いい。

12月28日

例の如く、爺ちゃんに駆り出されてクリスマスマーケットでモミの木を売ることに。
そんな時に、クッソダサいセーターを見つけた。
緑の背景に白いトナカイやら雪の結晶やらが編まれているもの。
青地に白い水玉パターン、中央に大きなプレゼントボックスが編まれているもの。
すぐにヴィーの顔が浮かんだ。
これを送り付けてやったら、どんな顔をするんだろうか、なんて。
考えるだけで楽しくて、へそくりで思わず買ってた。
もちろん、自分の分も。

クリスマスの時期は過ぎたけど、それをいつもの空間転移で送り付ける。


『俺』が誰かにプレゼントするなんて、やっぱり天変地異の前触れのように思える。
でもなんだか、少し……楽しい。

1月1日

クリスマスプレゼントのお礼に、ヴィーからラム酒のストックをもらう。
酒場でヴィーの名前を出せば、キープしておいたラムが飲めるらしい。
相変わらず、律儀。
しかも、俺の好きなダークラムで、俺の飲み方も覚えててくれた。
ロックで飲む俺のために、糖と樽木の匂いが強いもの。

そんなことだけでも、嬉しくなる。
俺のことを覚えててくれて、嬉しくなる。

早速、飲みに行って、下層の噂を聞く。
下層の銃器製造工場だかが爆破されたらしい。
組織抗争だの、銃の弾丸の値があがるだろう、だの。
そんな話を耳に飲んでたら、少年に声をかけられた。
少年と青年の間ぐらいの歳か……。
なんでも、下層の爆破のせいで工場を所有していた『アンドロメダ』っていう、武器組織が弱体化しそうだとか。
『アンドロメダ』のシマを乗っ取りたいのが『ビリービリー』っていうドラッグ組織だとか。
さらには、漁夫の利を狙ってるのが少年のいる組織『シャーロット』だとか。
なんとなく、奢ってもらいながらそんな話を聞いてて――

珍しく、気に食わなくなった。

ビリービリーの作ったドラッグ――『栄養剤』を工場復興しようとするアンドロメダ組織員に配れ、という依頼があるらしい。
『栄養剤』を飲めば作業能率は遅れる上に、いずれは『栄養剤』しか欲しなくなって、餓死する。
そのやり口が――酷く『解るから』気に食わなかった。

――もし街を一つ、丸っと潰すなら、毒を井戸に投げ込めばいい。
毒が徐々に町人に溜まっていき、次第に致死量を越えた者から死んでいく。でも、すぐに原因なんて解らない。
死者数がどんどん増えた頃合いになって、井戸に気付いたとしても――その時にはどれだけの町人が残っているか。
残っていても弱っている彼らを殺し尽くすのに、どれだけの労力で済むか。

そんなことを兄貴は考えた。
同じようなことを考えるヤツがいることに、なんでか腹が立った。
多分、同族嫌悪だろう。

だから、少年に奢ってもらった飯を対価に、一つ乗ることにした。
その『栄養剤』を、俺が依頼を請けるフリをしてもらってくる。
それをそのまま、少年に横流しするというもの。

面倒事だと思うし、何かをやろうと思うことがすでに面倒だけども。
ビリービリーの思惑とやらを台無しにしてやりたいと……珍しく、思った。
『栄養剤』を横流しすればアンドロメダの勢力は思ったより衰えず、ビリービリーは攻めあぐねる。
アンドロメダが削り切られなければ小競り合いも続くだろうし、シャーロットも漁夫の利を狙いやすくなる。
さらに、その『栄養剤』を元にドラッグを作って売れば資金源にもなる。
少年にとっても悪い話じゃない。

話はまとまり、やることになった。
でも……俺がやる気を出すなんて、やっぱり天変地異の前触れかもしれない。

1月13日

酒場でヴィーを見かけたから、チョッカイをかけにいく。
どうも彼は最近、出歩いてなかったらしく俺に話のタネを求めてきた。
もちろん、奢りの対価として。
だから下層の爆破事件の話やら、そこに一枚、俺が噛むことを教えたら、素っ頓狂なツラしてた。
俺が何かをしようとすることが、相当意外だったんだろう。わかる。

俺はチョロまかした『栄養剤』を、知り合いに分析してもらって、それと似た効能がある別のドラッグを作ってもらってる最中で――
目的は『ビリービリー』の総統サマにそれを飲ませること。
どうせ『栄養剤』を飲ませたところで、解毒剤も耐性もあるに決まってる。
だから『似た効能を持つ、別の成分ドラッグ』を作る必要があった。

それを話したら、ヴィーも一噛みしたいと言ってきた。
ビリービリーのやり方が気に食わないのは、同じらしい。
俺の本音としては、なるべく人死にに関わりたくない。
だからこそ、総統だけを狙えればいい。
そうは思っていたけど……なかなか難しいのが現状。

そもそも、総統にもドラッグを『お返し』するのが目的であって、確実に殺す気まではない。

……人を殺すのは愉しい。
殺意を抱くだけで背筋がぞくぞくとして、興奮する。
空間転移で動く心臓だけを取り出す瞬間。それを握る感覚。握り潰す触感。
どれも好きだ。

だから『俺』は殺さない。
出来るだけ人が死なないように、最小限の犠牲で済むようにしたい。
ドラッグのせいで死んだとしても、それは対抗手段を持たなかった総統が悪い。
――そう、誤魔化すことにした。

幸いにして、翌日『シャーロット』のニカと総統がシマを争って、タイマン張るらしい。
だから、タイマンに横槍を入れに、二人で行くことになった。あわよくば、だけども。
その際、顔バレして組織に狙われて、表に出られなくなるのはお互い困るところ。
そのために、俺は顔を変えることにして、ヴィーは丸っと姿を変えることに。
名前も兄貴の名前を呼ぶように告げた。
ヴィーは『ゼクス』と呼べ、と言ってきた。



そういえば、あのクソダサセーターを着たらしい。
贈り物のつもりだったけど『捧げもの』って言ってた。
なんぞ、不思議な言い回しだなと思ったけども、着たならヨシ。
着たクセに、贈り物だから着なきゃという衝動?義務?
わからんけど『着なきゃならない』となった自分が悔しくて、カウンターに拳打ち付けてぷるぷるしてた。
可愛かった。
だから、当人が『せめて、"そうあれ"とは願ってくれンなよ!』と喚いてたけど、願ってあげた。
『明日は着て来てね♡』
ブッ殺す、まで言われて、久々に腹を抱えて笑った。

明日のことは明日のこと。
今日は久々に、ヴィーと潰れるまで飲み比べをした。

1月14日

ニカと総統サマのタイマンは――結論から言えば、ニカの勝ち。
総統サマは言動も行動も素晴らしく変態で卑怯だった。
それこそニカによってミンチにされたけど、アレでも生きてそうだな、と思えるぐらいに。
同時にニカの腕も『総統サマの部下』に狙撃されて吹っ飛ばされた。
幸い、その場にいた赤ずきんの子のおかげでくっつきはしたから、安心はしたけど。
術後のことは、ニカの組織仲間らしい少年――イツキに任せることに。

そういえば、ヴィーは女になってた。
姿を変えるとは聞いたが、常時の面影一つない女性だった。
以前捕食した女性の容姿を、引っ張り出して乗っ取ってるんだかなんだとか。
思えば、彼は『捕食者』だ。
俺たちがネズミなら、ヴィーはヘビ。
仲良く会話をしていても、ヘビがその気になったら食べられるしかない。

でも、そんなヘビに『底が知れない』と怯えられてしまう『俺』は何なんだろうね。
そのくせ、そんな俺の『奥底を暴きたい』と言うんだから――
『好奇心が猫を殺す』と何度忠告したって、聞きやしない。
俺の奥底にあるのは『寂しさ』と『虚しさ』だけだ。
ただ、感情が解らぬヴィーは、それに興味を持つのは当然。
懇切丁寧に『虚しさ』を教えてあげたら、ヴィーの中では『厭う命の在り方』であり、消すべきものだったらしい。
……でもまあ、虚しいまま生きるのは、『生きてる』とは言わないだろうね。
ただ『在る』だけだ。
自分が『そう』なんだから、よく解る。ヴィーに唾棄されるのも解るよ。
そして、多分『これ』のせいで俺は『底知れない』とか言われてしまうんだろう。


今回、タイマンの『立会人』として、(一応)中立の立場である俺とヴィー、それから赤ずきんの子は『ビリービリー』から命を狙われる可能性がある、という話になった。
総統サマが今回負けたっていうのは、立会人の俺たちが証言すれば間違いない話。
であるなら、その証言者を消せば、いくらでも約束を反故出来る。
だから一人で行動しない方がいい、という判断から、しばらくヴィーと下層の宿で共同生活をすることに。
わざわざ、爆発した工場近くの安宿を選ぶ辺り、俺たちは酔狂なんだろう。
おまけに総統サマを捕まえられたら、腑分けてどんな人体構造をしてるか、それを肴に酒でも飲むかとか。
お互い、外道でロクでもない。

でも、そんな馬鹿な真似もヴィーとなら楽しい。



ヴィーは年に一度、本能だけになって暴れてしまうらしい。
かつて彼は、それのせいで大事な友を――親友を殺してしまった。
でも、そんなヴィーの姿も見てみたい。
本能だけの――恐らく、人の姿もしていないだろう彼を。
そんなような話をしたら、表情一つ変えずに
『平常の私に殺されるのはアリだけど、理性もクソもない私に殺されるのは「つまらない」』
そう、言われた。『だから、(その姿を見に来たとして)あっさり殺されるなよ』と。

――『つまらない』という気持ちが湧いたことを、少しだけ嬉しく想う。
そして、彼の親友に……性格も、容姿も、命としての在り方も違うのに、俺はどこか似ているらしい。
だからこそ、これからも俺は『愛してる』と言い続けようと思った。
兄弟のように、あるいは親のように――友として。

そういえば、宿で発覚したけど、コートの下に贈ったクソダサセーター着てた。
律儀というか、そういう『業』なのか、俺が『願った』から義務になってしまったのか。
だから遠慮なく、指差してゲラゲラ笑わさせてもらった。

1月19日

『ビリービリー』の4つの倉庫が襲撃された。
その翌日に俺たちは、別の倉庫2つを襲撃をした。
警戒レベルだのが上がっているだろうけど、元より計画したことを変える気もない。
今回の目的は倉庫の中身を丸っと『いただく』こと。
その上で、それを交渉材料にして総統サマに出向いていただくこと。
移動先の倉庫は押さえた。
あとは俺が片端から倉庫の中身を、押さえた倉庫に空間転移させればいいだけ。
陽動はヴィーがやり、その騒ぎの間に俺が動く。

前職――いや、『兄貴』と『弟』がやってたことを、そのままトレースすればいい。
『俺たち』は泥棒なんだから。
とはいえ、盗み出せたからといって、素直に帰してもらえるワケでもなく。
白衣の女性とカウボーイに邪魔をされ、小競り合いに。

ひとまず、痛み分けで退くことは出来たけど、随分と消耗した。
……痛い。眠い。
だからこそ『兄貴』の真似を。
どこまでも不謹慎に、緊張感の欠片もなく、『兄貴』らしく。
――そう。『兄貴』なら、こんな怪我の痛みなんぞ、笑って耐える。
『兄貴』の真似をしている間は、俺は『無敵』でいられる。

ただ、さすがに宿に帰った際に、ヴィーから『回復弾』を撃ち込まれた際は――
寝てる所だったのもあって、一瞬、『素』に戻りかけて危なかった。
撃った当人は、撃たれた痛みに歯を食いしばる俺を見て笑ってたけど。

襲撃を頑張ったご褒美にヴィーがタルトを買ってきてくれた。
そういえば、一緒に生活するようになった時だったか。
ヴィーは俺の『飼い主』と言っていた。俺は『飼い犬』だと。
ただの冗談、言葉遊びなんだろうけど――悪くない。
今回の件では『相棒』でもあるし、その一方で、びっくり人間である俺の身体を『解剖したい』とか、平気で言う。
物騒な『飼い主』サマだけど、面倒見が良くて変な所が優しい。


ヴィーが親友を殺した件で、一つ思ったことを告げた。
『何も感じられなかったとしても、何かを感じたかったんだろう』と。
少なくとも、俺にはそう聞こえたから。
それに、ヴィーは狼狽えているようだった。

でも眠たくて、眠たくて……何を言っていたか、覚えてない。

1月20日

ヴィー……というか、女の子の姿だから『ゼクス』だけども。
――に、熱烈なキスをされた。
俺の意見がどうしようもなくイカレてて、自分が想像もつかないものだったらしくて。
それで嬉しくなったらしい。
よくわからん。
まあ『嬉しい』を『キス』という形で表現するのは、いいことだと思う。

酒場にいりゃ酔った勢いでキスされることも、することもあるし、そうじゃくてもにゃんにゃんの最中ならするし。
――そういえば、ヴィーに嘘を言った。
俺は誰とでもキスする。求められればするし、ノリですることもある。
でも、明確に『好き』だと思ってするのは、ヴィーだけなんだけども。
まあ、いいや。
……というか、『ヴィーから』キスされたのが、多分、ものすごく、嬉しいんだろう。
俺はガキか。


ひとまず、今後の方針を話し合う。
『ビリービリー』の戦力を削ぐなら『アンドロメダ』の依頼でも請けて、片端から殺すのが一番早いんだけども。
俺は人死にに関わるのは、とっても嫌なので。
じゃあ、いっそ、引き抜こうという話になった。
引き抜いた人員の受け皿として『シャーロット』にお願い出来ないか、ニカに打診をすることに。それは俺がやる。
ついでに、一時的にシャーロットに俺たち二人が属せないかも。
上手くすりゃ、シャーロットとして代表戦――総統サマと直接戦りあう機会も出来る……かもしれない。
ただビリービリーの連中も忠誠心だのが強かったり、あの組織だから実験体が手に入り易くて離れるメリットがない、という場合もあるワケで。
でも先日戦ったカウボーイなんかはバーサーカーの類だから、いっそシャーロットのような成り上がり上等弱小組織の方が、戦闘機会が増えて寝返る可能性は高い。
ついでに言えば、中堅どころが寝返れば下っ端なりをさらに勧誘して、引き抜いてくれそうでもあり。
だから、殺しにかかってくる相手と適当にやり合いながら、説得して引き抜こうと――そういう結論になったんだけども。
それで喜ぶヴィーは、なんなんだろう。
俺はそんなに変なことを言ったか???
そもそも、知らないものを知ろうとするのは、ヴィーの本能のようなものだ。
俺はそんなヴィーにとって『私の知らない事を、考えない事を、多く知る者』らしい。
……わからん。
俺はそんな滅茶苦茶でイカレてておかしいことを言ったのか?

殺されそうになったのは、一度や二度じゃない。
それでもなんとか生きてるし、殺意も『仕事から』の殺意であるならば――私怨や義憤でなければ適当なところで濁すことも出来る。
『仕事絶対完遂マン』には無理だけど。
だから、説得を聞き入れるかはさておいて、説得するだけの価値はあると見込んだんだけど……
そんなにおかしなことを言ったかなあ。
命は一つしかないのに、無謀。だから、イカレてる。
そう説明されたけど、いざとなればケツまくって逃げりゃいいだけだし。
失敗すりゃ、死ぬだけ。誰を恨むでもない、自分の策の未熟さの結果であって。
俺にはそれで興奮するヴィーの方がわからん。
わからないけど、それを理解されないことは……今回は寂しくない。
ただ、俺なりに理詰めで考えた結論だったから、不思議なだけだ。



ヴィーに質問をされた。
俺が奢ってもらいたいと願うのは、『善意』が見たいから。
それを知った上で、何故、善意が見たいのか、と。
……『善意』を見れば、まだ人間は捨てたもんじゃないと思える。
それを見れている間は俺の『人間嫌悪症』もマシでいられる。
『兄貴』の恨みであっても、俺も同じように反吐が出たから。『人間サマ』のやりようには。
だから、下層がドンパチやらかして中層をも脅かすなんてことにでもなったら、俺は『善意』が見れなくなる。
もしかしたら、俺がこの件に首を突っ込んだのは、それもあるのかもしれない。

あとは俺の『寂しさ』を、どうやって埋めたらいいのか、とも訊かれた。
だから、添い寝をお願いした。
別にエロいことはしなくていい。
ただ、誰かの体温を、鼓動を感じていたい。
そう言ったら、ヴィー(男の姿)とゼクス(女の姿)とどっちがいい、なんてリクエストまで聞いてくれた。
そう言われたら『両方』って答えるよね。
俺は『お前』が好きなんであって、見た目なんて二の次なんだから。

”寄生虫”ゼクス、”永遠のヒモ”ヴァレット――二人揃って『ロクデナシ―ズ』
善き悪友。相棒。


もっとヴィーとキスがしたい。

1月27日

ヘマをこいた。
『ビリービリー』の戦力を引き抜きに行って、下っ端は何人か引き抜けたものの、中堅どころは意思が固かった。
俺の話術なんか、何の役にも立たない。
しかも同じ場にいた、お人好しの暗殺者が総統サマに拉致られた。
ヴィーが片腕を切り落とされたのもあって、一旦、その場は撤退。

総統サマは『女4人』とその『暗殺者』を交換してやる、みたいなことを言っていたが……
素直に交渉に応じてくれるとは思えないっていうのが、俺たちの一致した見解で。

そんな折に、今回のドンパチで焼け出された下層民への炊き出しを襲う輩がいる、なんて噂も聞こえてきた。
ひとまず、ドンパチが苦手な俺は待機。ヴィーが様子を見に行くことに。
炊き出しの護衛の中に、暗殺者の知己なり、応援要員になりそうな相手でもいれば、声をかけてくれるように頼む。

ただ、それもあまり上手くいかなそうだ。
護衛は中層の闘士や衛兵、冒険者ばかりだったらしく、下層のドンパチに興味があるというよりは、人道支援のために動く者ばかり。
闘士や衛兵ならまだしも、冒険者なら人殺しを厭う者も多いだろう。
そんなメンツを下層の抗争に巻き込むワケにもいかず――救出は一時、様子見に。
一つだけマシだったのは、炊き出しを襲った『ブッチャーズ』連中を潰したことで、しばらくはそちらの連中は表立って行動しなくなるだろうということ。
この調子で下層が早く、落ち着いてくれりゃいいんだけど。

そういえば、ヴィーの腕は数日で元通りになった。
切断された日は、ずっと黒い体液が滴り続け、バケツと雑巾を持ち歩いてた。
シュール過ぎて、さすがに笑えなかったョ……。

ヴィーの正体は黒いヘドロ。
以前、そう聞いたけど、でも嫌悪はなかった。むしろ、可愛いと思えた。
それのせいで『ヘドロフェチ』なんて当人には言われた。
再生力を補うために『捕食』でもしてきたのか、なんて訊いたら死体を食ってきたという。
それを聞いて、『仕方ないなあ』と『生きた人間を食わないだけ殊勝じゃない』と思ったから、そう言ったら、肝が据わってる、と言われた。
……ヴィーの主食が人間である以上、それを止めろとは言えない。
もちろん、生きた人間を殺すよりは死者を食ってくれた方がマシだけど。
そんな会話の果てに『私に喰われたいの?』と訊かれた。
当人は冗談のつもりだったらしいけど、俺はそれで終わるのなら、それでいいような気がした。
少なくとも、死に際に会いに来て『何を望む』と訊かれたら『お前さんに食べられたい』と言いそうな気はした。多分、それが俺なりの『愛』なんだろう。
そんな俺を、ヴィーは黒い触手を出して手首を絞めつけながら『捕食するとは、私に取り込まれること。取り込まれれば、私の中で永遠に存在すること。生きる実感も死ぬ結果もない。生命としての在り方ではない。それでも愛を宣うか』と脅してきた。

そんなの、選ぶまでもない。
そんな虚しい存在になっても構わないからこそ、愛なんだと……俺は思う。
そんな存在でも、一緒にいられるなら、そっちの方がいい。
決して正しい愛ではないだろうけど、『正しさ』なんぞクソ食らえ。
これが俺の『愛』だ。
でも、ヴィーは俺から逃げた。
そんな俺が『恐い』と思えたようだ。

基本的に快・不快で考えるヴィーにとって、俺の発言はそのどちらでもなかった。
ただただ、『わからない』。だから『恐い』と感じたようだ。
加えて『人』であるヴィーに寄り添おうとした人間は今までも居たらしいが、俺のようにありのままの『人外』に寄り添おうとしたヤツは、今までいなかったらしい。
前例を知らないから、恐い。
……恐怖を知らないヴィーが、俺を恐いと思ったのなら、上々。
憎しみであろうと、愛であろうと、他の何かであろうとも。
『本気』は恐いものだと知れればいい。

ついでに、その『恐さ』を理解するために今ここで、俺を食べてみるか。
そんなことも言ってみた。
食べることで感情を理解してきたのかは不明だけども、少なくとも食べてきたことで蓄積されてきた何かがある可能性は高い。
提案をしてみれば、すぐにもヴィーの触手が部屋中を覆って、俺はまさに袋の『ネズミ』だった。
でも、一切、怖くなかった。
それがヴィーのためにもなるなら、俺はいくらでも喰われる。

でも、結局、ヴィーは俺を喰わなかった。
俺を喰って感情を知れるかもしれない、と賭けること。
親友を殺したことから学んで、俺を殺さないこと。
俺を喰うのがもったいない、と感じること。
その内のどれか尋ねたら、親友を殺したように『友』と呼ぶ俺を殺したら、あの時から何も成長していないことになる、と言われた。
……少し、妬けた。
ヴィーは『何も感じなかった』とは言ったけど、それほどまでに親友を想っていることに。
親友を喪ったことに『何かを感じている』ことに。


そういえば、『何故』と問われた。
俺が何を言われても笑っているのか。厚いツラに心が覆われて、喜怒といった感情が見えない。
何がよくて、そう感情を繕っているのか、と。

そんなの――もう、笑うしかないからに決まってるじゃない。
繕ってるワケじゃなく、怒るのにも哀しむのにも疲れた。
そうなったら、もう笑うしかない。
感じることを止めた俺に、ヴィーは『それなら、その感情を寄越せ』と言った。
それが出来たら、いくらでも、とは思うけど……どうせ失えば、今度は取り戻したくなる。
人っていうのは、そういうものだから。

ヴィーは『感情こそが人間の強さの根源』と思っている。
俺からすれば、こんなに疲れて厄介な感情をよくも欲しがるな、と思うけど……
でも、ヴィーが人間になるために感情が必要なら、あげようと思う。
だから……

俺が死んだら、哀しめよ。
どうか、……寂しがれよ。

1月28日

事態が大きく動きそうだ。
『アンドロメダ』でもなく『ビリービリー』でもなく『シャーロット』でもない。
『傭兵団ドーベル・リ・ガード』が『ビリービリー』を襲撃する、という噂が出てきた。
俺たちは直接絡んでなかったが、ちょくちょく今回の一件で聞いていた名前だ。
もし、それが成されるのであれば、人質になってる暗殺者の救出はどさくさに紛れて叶うかもしれない。

ただ、俺の調子は良くない。
ドンパチに参加したとして、足手まといになる可能性がある。
それに渋ってたら、ヴィーが一人で行くと言い出した。
その代わり、これを預かってろ、といつもヴィーがつけていた首飾りを押し付けられた。
ヴィーが死んだ際、肉体の再構築をさせる呼び水になるもの、らしい。
俺のヴィーに対する記憶や想いをエネルギーにして。

売って酒代にするなよ、なんてことも言われたから、売ったところで酒代にもならない、と断言はしておいた。

ひとまず、俺は寝床と酒を用意して帰りを待つことに。



……無事に帰ってこればいい。

1月30日

深夜遅くに、ズタボロのヴィーが帰ってきた。
どこもかしこも血濡れで、どこに傷があるかもはっきりしない。

その姿を見て――珍しく、イラッとした。
ヴィーをここまで損壊させた『誰か』に。
というか、総統サマしかいないけど。

話を聞けば、混戦も混戦。しかも多勢に無勢だったらしい。
もちろん、ヴィーの側の方が無勢。
よくもまあ、生きて帰って来れたもんだ。
それだけの混戦の中でも、暗殺者は逃がすことが出来た。
ついでに総統サマの上半身と下半身をぶった切って、さらにその下半身も斬って当人はスカッとしたらしいが。

ひとまず、ベッドに寝かせて傷の治療をしながら、今後のことについて話し合う。
『ビリービリー』については、今回の件で物理的、人員的損害のみならず、衛兵が介入してきたから拠点はもう使えないだろう、とのこと。
少なくとも、すぐにどうこうなることはなさそうだ。
もう少し様子見で下層にいることも考えたけど、ヴィーは中層に行くことが増えるようで。
ヴィーが居ない間、今回のドンパチで稼いだ活躍幣で生活しろ、と言われたけど――
その活躍幣は全部、ヴィーとテオにあげちゃったワケで。

叱られた。

だーって、お金とか、金に代わるものとか、俺に必要と思えないんだもーん。
稼ぐこともだけど、得た金で生活するとか……それが必要だと思えない。
だから、必要そうな人にあげるのが一番だと思ったワケで。
手前が食つなぐ分は持っておけ! なんて言われたけど、それなら奢ってもらう方が何千倍もいい。
でも、下層で俺の『奢って♡』が通用するワケもなく。
仕方なく中層に戻ることに。
中層に戻るから、ヴィーとの共同生活もこれでオシマイ。

ただヴィーが快復するまでの数日は、甲斐甲斐しく世話をしようと思う。
快復したら、首飾りを返して、また『一人』になる。


ヴィーにキスしたら、鉄錆の味がした。
ヴィーの頭を撫でたら手を甘噛みされた。
……また寂しくなる。

 ・
 ・
 ・


9月10日

ここ半年以上、ヴィーの姿を見ない。
ほとんど酒場しか出入りしない俺だが、食事が必要ないヴィーだって酒場にくらいは寄る。
主に人間観察のために。
だが、まったく姿を見ない。

また手紙を『跳ば』そうかと、何度か思った。
でも結局、やらなかった。

返事が返ってこなかった時が、怖い。

俺に飽きたのかもしれない。
俺を忘れたのかもしれない。
俺がどうでもよくなったのかもしれない。
……何かあったのかもしれない。

大丈夫。
諦めるのは得意だ。
仕方がないのは、いつものこと。


ただ、無事でいてくれればいい。
元気でいてくればいい。

(インクの染みが一つ)

11月27日

眠い。
頭に靄がかかっているように、常に眠い。
この感じは兄貴の記憶で覚えがある。

俺のお迎えが近いってことだろう。

幸いにして誰かと会話してたりする間は、緊張するからか眠気が引く。
だから、出来るだけいつものように酒場に入り浸って、誰かと話す。

そろそろ、どこで死ぬか場所を決めておかないと。
目立たないところがいい。
誰にも気づかれない場所がいい。






ヴィーは来てくれるだろうか。
……寂しい。

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件名 無題
投稿日 : 2023/01/08(Sun) 11:47
投稿者 ヒュー
参照先
4月14日

通りを歩いていたら、ヴィーの姿を見た。
嬉しくなってとっさに声をかけに行ったら――
別人だった。

『来る者拒まず、去る者追わず』
そうやって、ずっと誰とも深く付き合わないようにしてきたのに。
一年経つのに、それでもヴィーに会いたくなる。
相手が求めていないなら、俺は必要ない。
反対に俺が誰かを必要としちゃいけない。
返事がなかったら怖い。


でも。
もう、俺に残された時間もさしてないだろう。
だから、最期にダメ元で『奢って』とメモを送りつけた。

ヴィーの存在力を座標にして送りつけたら、すんなりメモは消えた。
その時点で、彼は『存在している』ことが確定して、少しほっとした。
どういう状態であれ、存在はしている。
死んではいない。

それだけで十分だと思った。

なのに、すぐに返事が来た。
いつもの伝書鳩が俺の所に来た。
慌てて括りつけられた手紙を見たら

『何だ、未だ餓死してなかったのか』

そんな文面だというのに、涙が出そうな程、嬉しかった。


ヴィーと会える。
これで、もう想い遺すこともないだろう。


4月23日

ヴィーといつもの歯車亭で会う。
一年ぶりというのに、まったくお互い変わってなかった。
少なくとも、表面上は。
それに酷く安堵した。

事情を聞いたら、諸々の反動で人の姿を保ってられず、未踏区域に引きこもっていたらしい。
どうせなら俺の傍にいれば懐にでも入れて人間観察させつつ、街中をうろうろできたのに。
そんな風に言ったら、擬態?を解いたら巨大なスライムになる上に本能だけになってるから、俺を喰うだけならまだしも、街中で暴れて指名手配になるのは厄介だ、なんて話に。
前にも指名手配になっていたらしい。
『白霧浜の怪』なんて、かつては呼ばれ、怪異扱いされていたらしい。
ヴィーからすれば人間に興味を持ってチョット触っただけなのに、触られた相手は圧死するっていう状況だったらしく。
不謹慎だけど、ゲラゲラ笑った。
はた迷惑にも程がある。
しかも、ヴィーは人間に興味を持ってしまったから、浜に上がるたびに人死にが出るワケで。
さらに不死だから、何度倒されても浜からやってくるワケで。
はた迷惑にも程がある。

そういえば、なんだかんだ話してる具合で、ヴィーと試合?殴り合い?
なんか、戦闘をすることになった。
会話の具合で、いつもの調子で俺が『いっそ俺に惚れろ』と言ったら『惚れるのは無理だ、ただ闘り合って俺を負かせたら、見方が変わるかもな』なんて言われたから。
正直、闘うのはとっても嫌だから、適当に冗談言って誤魔化そうとしたら、あえて本気に取りやがった……。
結局、闘るハメに。
……ヤダナァ。
でも、ヴィーが戦闘を望むなら、仕方ない。
闘るよ。お前が望むなら。


俺の死に目の話にもなった。
俺が忘れてたのもあったけど、何故、ヴィーが俺の死に目に会いに来てくれると言ってくれたのか。
最初はヴィーの問いのせいだった。
『自分が死んだらどうなると思うか』
そう問われた俺は『何かを成すこともなく、後悔することもなく、遺すこともなく、ただ無為に死ぬ』と答えたらしい。
覚えてなないけど――まあ、俺ならそう言うよね。
ヴィーはそれを聞いて『じゃあ、御前の死を有為にしてやったら、どんな顔を拝めるのか』と好奇心を持ったから、俺の死に際に来てくれると約束してくれたらしい。
ただ今は俺が変人過ぎて、そんな約束をしたことを物凄く後悔してそうだったけど。ザマミロ。

でも、今はどうだろう。
少し考えた。今の俺なら、何も成さずに死ねるんだろうか。
一つだけ、未練はあった。
厳密には二つ、だけど。
でも、一つは――兄貴と弟に分離する件は、死に際にヴィーが叶えてくれるだろうから。
だから、もう一つの未練。
『ヴィーをもう少し人間らしくさせてやってから死にたい』――それを成したい。
そう言ったら、露骨にヴィーは固まってた。
『俺の人間願望に構わず自分の好きに生きろ』なんて言われたけど、俺のやりたいことはそれしかないワケで。
少なくとも、ヴィーの方が俺より先が長いワケで。
だから、俺の心を遺そうと思った。
そうしたら、人間性は真反対なのに願うことは昔の友と同じだ、って言い出した。
その話は、前にもちらっと聞いた気がする。
ただ、それを聞いて改めて確信したよね。
その友人は、きっとヴィーを愛してたんだろう。
もちろん、それが恋情かどうかなんてのは、知らない。
でも、間違いなく愛情は持ってたんだろう。


俺を置いて店を出ていこうとしたから、飯もロクに食わず慌ててついていく。
ついでにヴィーにとっては一年ぶりの都の案内を申し出る。
……出会った頃の俺だったら先に出るヴィーを見送って、普通に残って飯を食ってたと思う。
でも今は、――少しでも傍に居たい。


5月5日

特区の廃墟街でヴィーと待ち合わせ。
そこでガチの戦闘を。
正直、しんどいの一言しかない。
痛いし眠いし疲れるし。
でも、そんな思いをしてでもヴィーに付き合うのは何故か。
ヴィーに問いかけたら――サッパリわかってなくて笑った。
アレコレ問いを重ねて、なんとか及第点に持っていく。

俺がお前と戦うのは、愛してるからだよ。
それを理解して――
命を張ってまで俺が闘ってる事実に、ようやく俺が今まで『愛してる♡』と言ってたのが、冗談じゃないと気付いたらしい。
その上で『俺に其の感情を向けるのは已めといた方が善い』と、のたまいやがる。

そうじゃないんだよ。
感情っていうのは、理屈でどうこう出来るものじゃない。
ヴィーが人間になりたいなら『感情は理屈でどうこう出来るものじゃない』と理解して、実感として得なければならない。
正直、男だ女だ、人間だ人外だ、恋愛だ友愛だなんて、どうでもいい。
ただ、俺はお前を愛してる。

俺の言ってることを理解して、逃げてはいけない、ということも理解したヴィーは、
『愛』を『感情を受け止めて相手へ同じ感情を返さないといけないサイクル』と、何故か理解した。

………。
馬鹿かな?????

正直、俺はその時そう思った。
だけど、知らないんだから――どこをどう考えればそういうものだと理解したのか、サッパリ解らないけども――仕方のない話。
だから丁寧に『感情を向けられたら受け止める。これは仕方のない話。憎しみだろうと、愛情だろうと一旦は、受け止めなきゃならない』『その上で、相手へ同じ感情を返さないといけない、というのがおかしい』という説明をした。
戦闘の最中に。
能力の使い過ぎで随分と眠たかったし、そうして講義することで頭が少しはシャッキリしたけども。

同じ感情を返す、というのは義務であり、例えば、憎しまれたら、憎しみ返すのか。笑われたら笑い返すのか。
それはどう考えても生産的じゃない。
愛情も同じで、愛情を向けられたから愛情を返さねば『ならない』ということは、ない。
ただ、答えは見つけるべきではあって。
好きになった、好きになれない、友達でいたい――どんな答えでもいいから、自分で感じて答えを出さなきゃいけない。
でも、今のヴィーには無理だ。感じることが出来ないんだから。
だから、せめて――俺を見ろ。見て学べ。
俺がお前に何をしてやるのか。俺の最期の瞬間まで、しっかり見て受け止めろ。
……そう告げた。

多分、ヴィーなりに――理解しないなりに、感情を真似しようとしたのだろう。
誰かから向けられた愛を、同じように返そうとして、その表面だけをなぞって――きっと上手くいかなかったのだろう。
だから、俺の説明が酷く腑に落ちたようで。
きっと、また一つ。人間らしくなるために、一歩、進めたんだと思う。――思いたい。


ちなみに勝負は、俺の勝ち、だと思う。
ヴィーは不死身だから、普通の人間なら即死の熱線を叩きこもうと、すぐに再生する。
だから、俺はある意味、ヴィーを殺し続けたワケで。
5回ぐらいは普通の人間なら、即死級の攻撃をし続けたと思う。
さすがにヴィーの再生力もおっつかなくなってきて――俺も能力の使い過ぎで、酷く眠くて。
しかも、ヴィーに斬られるは撃たれるわ。
もはやどこが痛いかもわからなかった。ズキンズキンし過ぎて。

ヴィーは、襤褸切れみたいになりながら、俺のことを『強いのに、勿体ない奴だ』と言った。
勿体ない……そうかもしれない。
でも、この能力を何に使えばいいのか、俺には解らない。
だから、どうなったらいいと思うか訊いてみた。
そうしたら、木に引っ掛かった子供の風船を取ってやるとか、そういうことに能力を使ってやるなら、善い人間だと思う、と言われた。
……うん。そうだろうね。きっと、俺の能力は、そうやって使うのが一番いいと思う。

闘ったお礼に――ヴィーからすれば『しなければならない』という義務だけど、お願い事を一つ聞いてくれると言われた。
だから、俺の傷を治療して、起きるまで傍にいて、起きたら飯を一緒に食って欲しい。
三つぐらいお願いした。
ヴィーはおざなりに、三つ叶えてやる、と言ってくれた。





親友の話なりをしていて、ヴィーは時々、何かを感じているような素振りをする時がある。
だから、その都度、寂しいのか、と訊いてみるけど、実感してないからか即座に否定する。
でも、きっと何かは感じているだろうから、あとは何が足りないのか――
考えて、『恋をしてないからでは?』なんてアホな考えが過った。
なのに、ヴィーは一理ある、なんて言うもんだから、俺に恋しとけ、と言ってみた。
いつものように冗談交じりだけど、真面目に考えたヴィーの答えは『酒友の印象が強い』で。
見事にフラれた。

……少しだけ、どっかが痛んだ気がしたけど、まあ、どうでもいい。
これでもう、想い遺すことはない。
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