――それは、縫い付けられた断片。 何処まで進んでも果てがない地平線の彼方に楔と共に打ち込まれた、途方もなく巨大な白鎖で縫い付けられている光り輝く花園に満ちた月の庭園 永遠に朝の来ない静かな夜の闇に、とてつもなく大きな月が浮かび、光の花びらが舞い踊る。 夜の静寂の中で小夜啼鳥が歌い、純白赤眼の子猫や鳥が来訪者を優しく出迎える。
【青ざめた月】 空に浮かぶ、満ち続ける巨大な満月。流刑の都で観測可能な月とは比較にならない大きさであり、どこか女性的な光でこの庭園を包みこんでいる。 何かに押しつぶされるような不安や緊張を感じるほど雄大で、しかし母親の腕に抱かれるような優しさを感じさせる。 永遠の輪廻転生を意味する月輪は、この世界に訪れた人に心地よい高揚と魂の安らぎを与えるだろう。
【月花の庭園】 無尽蔵に広がる月光に輝く花園。花を踏むと花びらが舞い、舞った花弁が淡雪のように夜の闇に溶けてゆく月の幻想。 しかし、花は実際にその場に存在しており、 その場にいるだけで森林の中にいるような安らぐ気持ちになる。
・月光の花 便宜上の呼称。月光を得て輝く花であり、この世界に無尽蔵に存在する花。いくら踏まれて散ろうと、吹き飛ばされようと、しばらくすれば元通りになっている。 その花弁は見る人によって変化し、必ず『最初に入った人が思い描いた花』の形となる。 煎じればかなり強力な体力・魔力回復剤になり、摘んで持ち帰ることもできる。しかし流刑の都の市場で鑑定しようがないシロモノなので値打ちモノにはならず、維持には古森の肥沃な土と水が必要になるため非常に維持が難しい。
・白きけもの この庭園にはアルビノの『子猫』や『鳥』が住んでおり、花園の中で楽しげに遊んでいる光景がよく見受けられる。 彼らは本来の獣たちと同様に生きてこそいるが月光の花から生まれ、そしてこの庭園に還ってゆく生命体であるためこの箱庭の中でのみ生きることができる儚い命である。 しかし、無垢な獣たちは稀人の来訪を喜んで歓待し、見つければすぐに擦り寄って楽しげに踊り、歌う。 そして――空を舞う花弁がたまに、小鳥になる現実離れした光景を見ることも在るかもしれない。
【主なきお茶会】 月の根本に置かれた、野ざらしになっているようにも見えるティーセット。 誰かが手入れをしているのか白基調の洒落たソレは汚れ一つなく、ビスケットやシフォンケーキといったお茶菓子が準備されている。 紅茶缶もいつも新しく、紅茶を煎れるためのポットには紅茶を煎れるに適したお湯が入っている。 月光を浴びながら、静寂の中で静かなひとときを過ごすことができるように――静かに用意されている。 |
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