彼女は夜の訪れたばかりのような紫紺の長い髪をしていた。 足首まで覆う髪は、まるで夜会のドレスのよう。 瞳は夕日のような朱色。 その中で、白い飾り気のないワンピースはとても目を惹いた。
彼女はいつも笑っていた。 楽しい時も。嬉しい時も。哀しい時も。怒った時も。 歳の頃は10にも満たないか。 そんな彼女だから、表情も相まって必要以上に幼く見えた。
彼女には声がなかった。 だから、彼女は声の代わりになるものでいつも歌っていた。 雨音。風音。潮騒。喧騒。 なんでも、彼女の声になった。 そして、それらは彼女の声になれば、一時、音を失くした。
彼女の両手には、重い鎖がついていた。 太い手枷。 けれど、その重さなど彼女は感じさせなかった。 足取りに危なげなところもなく、軽く跳ねる身体。 ――そう、彼女は怪力だった。
彼女は何も語ることがなかった。 声もなく、文字も持たず、知識は偏り、過去もあるのかないのか。
そして―― 彼女には、まだ名前がなかった。
ただ、マーテルに呼び名をもらった。 『プリム』と。 常夜露は食べてもいいと言ってくれた。
でも、置いて行かれるのは怖い。 |
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